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SDGs探究AWARDS2024

大阪経済大学 点字ブロック歩き隊
視覚障がい者の方が安心して点字ブロックを歩けるように。
深層学習を用いた視覚障がい者歩行支援システムの提案

大阪経済大学「点字ブロック歩き隊」の皆さんは、AI技術を使って身近な社会課題を解決したいとの想いで、スマートフォンを活用した視覚障がい者のための歩行支援システムを提案。SDGs探究AWARDS2023(以下、アワード)審査員特別賞を受賞されました。
今回は、チームメンバーの松雪皓太さん、中筋友真さん、中塚智視さん、小田圭悟さん、建部芳仁さん、石山陽葵さん(アワード参加時3年生)と、指導にあたられた井上晴可先生に、ゼミでの研究テーマや歩行支援システム提案の経緯、受賞後の変化などお話を伺うことができました。

大阪経済大学 点字ブロック歩き隊の皆さん

点字ブロックの上の自転車。目の当たりにした社会課題を解決するためチームで取り組んだシステムの提案

―今回の活動を始めたきっかけ、そして視覚障がい者の歩行支援システムを研究テーマにした理由を教えてください

松雪さん「大学で開催している、プレゼンテーション力を競い合うゼミ対抗イベントのZEMI-1グランプリに出場することを目標として、3年生の春頃から今回の活動を始めました。」

中筋さん「この研究テーマにしたのは、どのような社会問題があるかを探していたときに、身近な所で点字ブロックの上に自転車が置かれ、視覚障がい者の方が困っているのを目にしたのがきっかけです。ちょうどそのときに持っていた携帯電話のカメラ機能が視覚障がい者の方の目になれるんじゃないかと思いつきました。」

―皆さんが提案されたシステムについて教えてください

中筋さん「実際に視覚障がい者の方がどの程度スマートフォンを利用しているかもインターネットで調べたのですが、日本視覚障害者ICTネットワークによると約90%の方が利用されているということが分かりました。そこで、誰もが持っているスマートフォンで、自分達のAIの知識を活用することができたら、利便性が高く普及しやすいのではと考えました。首にかけたスマートフォンで撮った画像について、深層学習を使い点字ブロックや障害物という領域を検出して未然に事故を防止するシステムになっています。安全判定は、写し出された画像に、点字ブロックだけが写っている状態を<安全>。点字ブロックの上に障害物が置かれている画像が写し出されると<危険>という判定が出ます。危険と判定された場合は、スマートフォンの『前方に障害物があります』という音声で視覚障がい者の方に通知するというシステムです。」

―チームでどのように活動したのでしょうか

中塚さん「研究発表まで約半年ほどの活動でしたが、役割についてはゼミの授業で進捗を確かめながら、今後の方針について話し合いそれぞれに役割を振って作業を進めました。具体的には点字ブロックの写真データを収集する人や、スケジュールの管理、意見をまとめる人であったり、資料の修正などがありました。個人でできる作業は各々で進め、チームで話し合いが必要なときは学校で集まったり、集まりにくいときはオンライン会議にするなど臨機応変に対応しました。」

―研究を進める上で、楽しかったこと、反対に苦労したことは何ですか

中筋さん「楽しかったことは、自分達で発表できる資料を完成させ、形にできたことです。そして、社会課題を解決する技術を生み出せたことです。苦労したことは、資料の作成や、システムを構築する際に独自の学習モデルを作らないといけなかったので、そのための学習データの収集。そして、集めたデータを実装させていくのにも苦労しました。研究室のメンバーや井上先生に支えられ乗り越えることができたと思います。」

大阪経済大学 点字ブロック歩き隊の皆さん 活動の様子

大切にしているのは「自分で考え、自分で探り、踏ん張ることができる大人」になるための環境づくり

―情報社会学部を選択された理由を教えてください

中塚さん「僕が情報社会学部を志望したのは、<社会に取り残されない、活躍できる人材になりたい>という想いからです。これからの時代、情報化の進む中、それらを扱う職業は需要が広がっていくだろうなと予測していました。また、大阪経済大学では、社会に出たときに活かせるデータサイエンスやプログラミングを学ぶことができることも魅力的だなと思いました。」

―ゼミの研究テーマについてお聞かせください

井上先生「ゼミは、身の周りの社会課題をICTやAIなどを組み合わせながら、どう解決していくのかということを研究テーマにしています。2年生の秋学期からゼミに所属して、グループワークをしながらチームで活動しています。本学のイベントであるZEMI-1グランプリに出場して、自分達の研究してきたことを発表すると、学内外の審査員の方から良かった点や改善したほうがいい点などフィードバックを貰えるため、4年生から始まる卒業研究の準備になります。」

―学生達を指導される際に大事にしていることは何ですか?

井上先生「学生の自主性を大事にしながら、成功も失敗も含めた体験を積むことができるような環境づくりをしています。与えられたことしかできないのでは、社会に出た時に学生自身が困ると思うので、自分で考え、探りながら踏ん張ることができるようになって欲しいと考えています。例えば研究で行き詰まった場合にも、『こうしなさい』ではなく、『こんな風に考えてごらん?』といったようにヒントを出しながら見守っています。また、ゼミでは学年を超えた繋がりを持つようにしています。私自身も研究室の先輩・後輩との繋がりが今も続いていますので、異学年の交流も大切にしています。」

大阪経済大学 点字ブロック歩き隊の皆さん 活動の様子

お互いの意見を尊重するコミュニケーションの在り方

―活動を通して、ご自身が成長したなと思われることを教えてください

中塚さん「チームで活動する中で、自発的に意見を持つということや、意見をただ伝えるだけでなく、お互いの意見を聴いた上で自分はどう思うかなど、それぞれを尊重するコミュニケーションを取ることができるようになったと思います。また、実際にシステムを提案するにあたって、目隠しをして歩くなど、ほんの一部ですが視覚障がい者の方の生活を体験したことも、自分とは違う視点を持つという所で成長になったかと思います。」

―今後の展望をお聞かせください

松雪さん「今は検出精度を確認している段階で、精度向上を目指しています。
最終的にはマルチプラットフォームIOSやアンドロイドを使ってリリースすることを目標としています。また、今後はオートバイや段ボール、看板といった障害物を追加するとともに、障がい者の方に実際の生活の中でどういった問題を抱えているのかヒアリングを行い、もっと寄り添った提案をしたいと考えています。」

中筋さん「日中は大体正しく障害物を検出できるのですが、日が落ちてからは検出漏れも見られている状態です。ゼミの先輩が取り組んだテーマのひとつに画像を変換する技術があるので、その技術を活用して暗闇での検出精度を上げていきたいと思います。」

―アワードの受賞後、ご自身の中での変化はありましたか

中塚さん「この活動や受賞を通して、SDGsについても身近な問題だけではなく、大きな社会課題にも興味を持ってみようと思うようになりました。自分達が大きなアクションを取ることは難しいかもしれませんが、それぞれが関心を持ち、どのように感じるかということがすごく大事だなと思うようになりました。」

松雪さん「就職活動においても、希望する企業が社会課題に取り組んでいるのかを意識するようになりました。今後は、仕事を通してSDGsへの貢献をしていきたいと思います。」

取材を終えて

自主性を重んじるとともに、たくさんの失敗や成功体験を積んで「社会に出たときに踏ん張れる大人になって欲しい」という学生達の活躍を願う井上先生のお言葉に心打たれました。また、その想いに応えるかのように点字ブロック歩き隊の皆さんが試行錯誤しつつも、視覚障がい者のための歩行支援システムを、より良いものにしようと積極的に改良を重ねていく姿が印象的でした。今後も、皆様のさらなるご活躍を楽しみにしています。

大阪経済大学 点字ブロック歩き隊 受賞作品