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SDGs探究AWARDS2024

横浜市立南高等学校 西田優美奈さん
日本の風土に合った新しい可能性
「糸状藻類アオミドロ」で環境問題に挑む

横浜市立南高等学校の西田優美奈さんは、『糸状藻類アオミドロのバイオ燃料としての可能性を探る!』という作品でSDGs探究AWARDS(以下、アワード)2022、2023の2年連続での受賞を果たされました。アワード2022では、日本ではまだバイオマス燃料としての研究がほとんど行われていないアオミドロに着目し、大量培養の手法とオイル抽出の検討を実施し審査員特別賞を受賞。そしてアワード2023には、オイルの抽出後に大量発生する残渣(ざんさ:残りかす)を活用できないか検証を続け、農業に必須の窒素肥料の代替となる土壌改良材としての製品開発を行い、中高生部門・最優秀賞を受賞されました。
独自で培養からバイオマス燃料の抽出を行った探究心、そして継続して研究を続け、オイル抽出後の残渣の活用から窒素肥料を巡る環境問題に切り込み、持続可能なビジネスモデルまで想定した社会貢献への意欲的な取り組みが大変高い評価を得ました。今回は西田優美奈さん(アワード参加時、高校1~2年生)に、研究活動やそこに込めた社会への想いなどを伺いました。

横浜市立南高等学校 西田優美奈さん

中学校の科学部から始めた研究活動を
高校進学後も自身の努力で継続

―研究を始めたきっかけと藻類に着目した理由を教えてください

西田さん「小学生の頃に父から、アメリカで行われていた海藻からバイオ燃料を作る研究について聞いていました。そのプロジェクトは日本人の方がリーダーとして活躍していることを知って、それで興味を持ったのが始まりです。中学生になって、地球温暖化を抑制する技術についてプレゼンテーションを行う授業がありました。そこで藻類バイオマスについてプレゼンテーションをしたところ、すごく皆さんの反応が良く、手応えを感じ、そこからもともと興味があった藻類バイオマスについてもっと研究してみようと思いました。藻類であれば、島国である日本は田んぼも多く育てる敷地も充分確保できると思ったので、これはぜひ日本でやるべき研究なのではと思ったことも理由のひとつです。」

―そこから研究対象を糸状藻類のアオミドロにした理由は何でしょうか

西田さん「当初は藻類バイオマスの研究の中でも主流なボトリオコッカスやイカダモという、目視では確認できない微細藻類について調べようかなと思っていたのですが、入手する機会に恵まれませんでした。それでフィールドワークをして、実際に藻類を探しに行ったときにたくさん見つかったのがアオミドロでした。最初はボトリオコッカスやイカダモへ転用するために、採集したアオミドロで培養の練習をしていたんですけれども、その過程でアオミドロにも同じようにバイオ燃料になるオイルが含まれていることがわかりました。その頃には国立環境研究所微生物系統保存施設さんからイカダモとミドリムシを分譲していただいて同時並行で培養していたのですが、大量培養や回収に高度な装置が必要ないアオミドロがすごく扱いやすくて、アオミドロに着目することにしました。実際のところ、私は中学では科学部で活動していたのですが、高校には科学部がなかったので、顕微鏡などの装置も手に入らない状況で、そういった扱いやすさを重視してアオミドロを選んだというところもあります。」

―ご自身で研究を進められていたとのことですが、実験の進め方を教えてください

西田さん「例えば培養の実験の際どういう栄養素が良いのか考えるときには、やみくもに栄養素を投入するのではなくて、先行研究ではどういったものを使っているかをGoogleScholarなどのサイトで論文を調べます。ミドリムシやイカダモだったら、ハイポネックスと呼ばれるメジャーな窒素肥料を投入するということがわかったので、まずそれをベースにして培養実験を始めます。そして植物に使う肥料が有効なのであれば、肥料によく含まれる他の栄養素も効果があるのではと仮定して、酵素や鉄を追加で投入してみたり。更に解釈を広げて、動物に対して有効なものでも良いんじゃないかと仮説を立てて、必須アミノ酸などを入れてみよう。といったことを繰り返しながら進めていました。」

―研究を進める中で一番楽しかったことを教えてください

西田さん「アオミドロにもバイオ燃料になるオイルが含まれていることがわかったときは、一番嬉しかったです。道が開けた感じがしました。アオミドロについて研究している方は今のところあまりいないのが現状なので、独自の研究ができるということにも、とてもわくわくしたのを覚えています。あと、事前に調べて立てた仮説を検証するために実験したときはすごく楽しかったですし、自分の立てたその仮説が正しかったとわかったときはとても嬉しかったです。」

横浜市立南高等学校 西田優美奈さん

たくさんの方にアプローチし、ひとつひとつ課題を乗り越える。
繋いだコミュニティがさらなるモチベーションに

―ご自身で研究を進めていく中で、つまずくこともあったそうですね。苦労した点についてもお聞かせください

西田さん「高校に科学部がなかったので、特殊な装置を使う機会や予算をいただく機会になかなか恵まれなくて、できる研究に制約があることが苦労した点です。そういった実験装置がない状況をいかに打開しようかと考えて、大学の先生に直接連絡を取りアドバイスをいただくことができました。特に佐賀大学出村特任准教授からは多くのご指導をいただきました。例えばオイルの抽出にはエバポレーター(溶媒を揮発させて目的物を取り出す装置)が本来は必要なのですが、IHヒーターを使ってお湯を煮沸したところに、オイルと溶媒の混合液が入った容器を入れて、湯煎のようにして溶媒を揮発させるという代替方法を教えてくださいました。また、企業の方に助けていただいたこともあります。オイルの回収をされている企業の方に写真やデータを送って見ていただき、オイルとしての認定方法をアドバイスしていただきました。そのおかげで、抽出したオイルの特徴を調べ、製造のコストの計算ができるようになり、結果としてバイオ燃料としての評価にまでたどり着くことができました。
それから、予算の点と、研究が進んできてそろそろ直接のご指導もいただきたいとの思いから、去年から東京大学の先端科学技術研究センター主催の高校生研究員というプログラムに参加しています。そこでは研究を手伝っていただいたり、クリーンルームの中で専門の装置を使った実験を先生・メンターの直接指導を受けながら成分分析を行うことができました。研究を支えてくださったたくさんの方に感謝しています。」

―接点の無い大人に対しても積極的にアプローチして研究に活かしていかれたんですね。身近なサポートもあったのでしょうか

西田さん「メールの送り方などは父が教えてくれたり、母も研究環境のサポートをしてくれて、本当に感謝しています。
それから、メンデルという科学者にも影響を受けています。彼も装置がない中で、自宅の庭で数千回にも及ぶ豆の実験を行っていたという話を中学生の頃に聞いて。根性があれば何でもできるんだなと背中を押されました。」

―他のコンテストにも参加されたそうですね。チャレンジする理由を教えてください

西田さん「藻類バイオマスの研究が進んでいる大学主催のコンテストには、研究発表・情報収集の場として重視して参加しています。それとコンテストには、いろんな分野の先生との交流会があったり、同年代の研究している高校生に会えたりというのが一番のポイントかなと思います。ひとりで活動しているので、同年代の子たちと研究の話をする機会を大切にしています。研究の苦労話で盛り上がったり、お互いの研究の質疑応答をしたり。去年のアワードで知り合った高校生の方とも他のコンテストでもお会いして、今でも仲良くさせていただいていますね。アワードなどコンテストのおかげで本当に人脈が広がっています。」

横浜市立南高等学校 西田優美奈さん

研究への好奇心を社会貢献につなげたい

―これからの研究活動の展望を教えてください

西田さん「窒素肥料には製造時の石油の使用量や、使用時の温室効果ガスの発生など、環境問題を多く抱えています。それに対して私の研究でアプローチできないかと実験を進めています。
オイルを絞り出した後のアオミドロを、何かに生かせないかなと考えていたときに、日本では沼などによくいる藻類を土壌改良剤として使っていたという記録を見つけました。その時にぶつかっていた課題として、アオミドロのバイオ燃料は製造コストの問題から、日本の土地だけではバイオ燃料単体でビジネスとして成立させるのが厳しいということがわかっていたので、オイルを絞り出した後のアオミドロを再利用することで、採算を取ることができないかと考えました。そこで、先ほどの土壌改良剤の話と結びつけて、アオミドロの残渣を土壌改良剤として使うという実験を始めたところ、すごく良い結果が出ました。今はその土壌改良剤の成分分析を行って、どのような植物に有効なのか、実際に窒素肥料の代わりになるのか、などを検証していこうと思っています。これらの再利用の研究も含めて進めていって、アオミドロを使ったバイオ燃料が社会実装できるようになればと思っています。」

―モチベーション高く活動できる原動力は何でしょうか

西田さん「優先順位はつけがたいですが、まずは社会に貢献する研究がしたいという想いがあります。環境問題を、私の場合は特にアオミドロを使って解決できればという気持ちが念頭にあります。オイルを抽出した後のアオミドロをなるべくCO2が出ない形で再利用したいとか、それをただ商用するのではなくて、持続可能な取り組みにするために、研究成果を応用して別の環境問題にもアプローチしたいとか、そういった視点で研究を進めています。SDGsもまだまだ解決には道のりがありますが、2030年までにある程度は解決に向けて進んでないといけないということを考えると、一人ひとりの努力は必要不可欠だと思っていて。『自分も何かやらなきゃ』という思いが湧いてきます。
あと他に挙げるとするならば、『今度はこういった場合についても調べてみたい』という知的好奇心は根本にはあるのかなと思います。」

―この研究を通して成長したと感じる点や、自分の中での変化を教えてください

西田さん「コンテストに参加している他の高校生の方から刺激を受けたり、審査員の方からご指導いただいたりして、その都度やりたいことがたくさん見えてきて研究の励みになりました。去年のアワードも、最初はこれに出したら研究を終わりにしようと思っていたんですが、賞をいただいてお褒めの言葉をいただいたことによって、まだ続けてみようかなと思って今に至っています。そういったご縁のおかげもあって、根気強く研究を続けるという点で成長できたかなと思っています。
自分の中の変化としては、研究をしていると身近な問題でも『これはこのSDGsの課題があるな』とか、『こういうふうに解決しないといけないんだろうな』みたいなことを自然と考えちゃうようになって。いろんな問題に対して解決方法や背景まで考えるようになったと感じます。」

―この研究活動をどのように活かしていきたいですか?

西田さん「アオミドロのバイオ燃料に関する研究は、中学校2年生からの5年をかけて、ひとつの研究としてまとめることができるかなと考えています。大学では、環境に優しいまちづくりと言いますか、そういったシステムづくりみたいなことについて勉強して、これまでの研究の成果などを実際に社会に生かすところに結びつけられたらと考えています。この活動を糧にまた別の分野にチャレンジしたいです。」

取材を終えて

中学校からおよそ5年にわたって研究を続けてこられた西田さん。限られた環境の中で工夫して、緻密かつ独自の実験を進められた探究心、そして何より研究を楽しんでいる様子が伝わってきました。「せっかく新しい技術を開発しても、それが環境に悪影響を及ぼすものであれば改善が必要。」と実験プロセスにも環境負荷を意識されていることも印象的でした。
西田さんが将来創られる「地球に優しいまち」を目にすることがとても楽しみです。これからのご活躍も応援しております。

横浜市立南高等学校 西田優美奈さん 受賞作品