麗澤大学 経済学部経営学科
近藤明人ゼミナール
規格外バナナから利益を。
持続可能なビジネスモデルを創り出す
麗澤大学経済学部経営学科・近藤明人ゼミナールの皆さんは「バナナdeビール」という作品でSDGs探究AWARDS2022(以下、アワード)学生部門優秀賞を受賞されました。身近な食品であるバナナには、規格外や皮の廃棄によるフードロス、バナナ農家の貧困や農薬による健康被害など多くの問題が取り巻いています。プロジェクトでは規格外のバナナを材料として商品(バナナビール)を作り、情報発信しながらこれらの問題に対するメッセージを届けるとともに、バナナ農家をはじめとするステークホルダーに利益を還元する持続的なビジネスモデルを立案されました。プロジェクト発足からおよそ1年。これまでの想いやこれからの展望、プロジェクトを通して得た学びについて、ゼミナール生の野崎来菜さん、荒井秀祐さん(アワード参加時3年生)と近藤明人先生にお話しを伺いました。(※活動内容は2023年10月インタビュー時点の内容です)
アイデアだけでは終わらせない。商品化を目指し歩み続けた道のり
―プロジェクトのきっかけは学内のアイデアコンテストだったそうですね
荒井さん「大学をあげてSDGsを推進するためのSDGsフォーラムという学内イベントがありまして、参加は有志なのですが、熱意ある学生がアイデアを応募しています。僕達のゼミは机の上で学ぶだけではなく、主体的に学生が動いていくことを重視しているので、学びを深めていくためにも参加することにしました。バナナdeビールのプロジェクトは、このイベントへの応募をきっかけに2022年9月から始まりました。」
―なぜバナナを題材に選び、ビールを作るという発想にいたったのでしょうか
荒井さん「バナナは食べる機会が多く、スーパーでも通年で価格はほぼ一定です。そして実は食べるけど皮はだいたい捨ててしまうので、フードロスの問題として取り上げられるのではないかという発想から、バナナをテーマに何かプロダクトを考えていこう、と方向性が決まっていきました。」
野崎さん「最初バナナに着目したときに、バナナジャムやバナナチップスなどを作成してみたのですが、匂いや見た目に課題がありました。そうして悩んでいる中で、ゼミの他のグループがビールのラベルを作成するプロジェクトを行っていて、地元の柏ブルワリーさんを紹介してもらったことで、ビールというアイデアに繋がりました。そこでバナナを皮ごと使って作っていただいたのが、最初のバナナビールです。」
―プロジェクトが始まって1年あまり。現在の進捗や課題についてお聞かせください
野崎さん「その後、バナナビールの製造を幕張ブルワリーさんにお願いすることになりました。そのバナナビールをリターンとして、クラウドファンディングに挑戦しました。支援してくださった方へ、順次バナナビールを発送させていただいております。現在は幕張ブルワリーの方とも相談しながら、地元のブルワリーやショッピングモールなどでバナナビールを商品として置いていただくことを目指して活動を続けています。」
荒井さん「課題については、商品化に向けて集客力を高めるために、ターゲット層をもう少し明確にしていく必要があると考えています。現時点では、お酒を扱っているということもあって、僕等と同じ世代から30代より少し上の年代の方をイメージしながら、どのようにしたらご支援をいただけるか、チームや幕張ブルワリーさんとも相談を進めています。
僕達は、個人のお客様に対してのアプローチ方法や実際販売をしていく上でのプロセス、企業対企業という場面についても、経営専攻の授業で広く基本的なことを学ぶことができたので、プロジェクトではそれらを生かしたいと思いながら活動しております。」
―フードロス解消のためにバナナの皮も使って商品化するという点については課題があったそうですね
野崎さん「たくさん試行錯誤をしていただいたのですが、現状では皮ごと使うことは難しいという結果にいたっています。皮が入ると沈殿物など見た目の問題や味の変化も出てきます。品質管理の面で安定的に管理できないというところがあって、現状ではバナナの実だけを使ったビールとなっています。」
荒井さん「皮の問題に関してはまだ具体的に取り組めていないのですが、僕達の卒業後、後輩にこのプロジェクトを引き継いでいく中で、新たに皮の廃棄の解決にフォーカスしたものを作っていただきたいなと思っています。ビールという形でなくてもいいので、また別のプロダクトとして商品化の可能性をぜひ探ってもらいたいです。」
近藤先生「現状ではパウダーにして皮を有効利用できることが世界で明らかになっています。ですが、それには乾燥の工程で相当なエネルギーを使うことから、今度は逆に温暖化に貢献してしまうという問題が出てきます。また別のアイデアとして、たい肥化もあるのですが、皮を回収して、たい肥にする場所へ移動するエネルギーのことを考えると、また温暖化に繋がってしまいます。このように、ひとつの問題だけを見るのではなく、社会システム全体への影響も合わせて考えていかなければなりません。バナナに限らず、果物などの皮の利用は取り組むべき課題です。このメンバーも参加しているのですが、プロジェクトの延長として、皮の利用について他大学の専門家の先生方と連携を始めています。私達は社会システムやビジネスの観点から、そして理工系やバイオの専門家は技術面から、協働してより良いものが今後できていくのではないかと思っています。」
繋がりをつくる。その喜びと難しさに向き合う
―プロジェクトを進める中でどのようなことに苦労しましたか?
荒井さん「ゴールを定めてからどういった工程で進めていくか、スケジュール感やその管理が大変だったという印象です。プロジェクトを始めた頃はビール以外の商品も考えていたこともあって、時間があまりありませんでした。例えば柏ブルワリーさんと連携した時には、1カ月という急ピッチで試作品を作っていただいたので、細かくスケジュール管理をしていく必要がありました。本当にたくさん話し合って、メンバーで役割分担しながら乗り越えることができたかなと考えております。」
野崎さん「バナナをテーマに決めたとき、知識がなかったので情報収集に苦戦しました。外部のたくさんの方にメンバーそれぞれが連絡を取って、ヒアリングさせていただきました。現在はクラウドファンディングを通して、広報活動をしていても思った以上に届かないという難しさを感じております。ネット上の広報としてはfacebookとInstagram、あとはクラウドファンディングのページ内で活動報告を随時更新しているのですが、更新する日程をみんなで割り振って、一人ひとりの負担が大きくならないように気をつけています。関わってくださっている企業の方や、クラウドファンディングを通じて繋がることができた企業の方と定期的にZoomで打ち合わせをして、見せ方・伝え方のアドバイスをいただきながら、投稿内容を日々研究しています。」
―どのようなことにやりがいを感じましたか?
荒井さん「自分達のアイデアがここまで形になっていくということが、僕自身初めての経験でした。本当にたくさんの方のご協力を得て商品化に向けて活動していること、今まさにこの過程を経験させていただいていることが、自分にとって本当に大きな学びですし、やりがいを感じる時間だなと実感しています。」
野崎さん「たくさんの方と出会えたことが、このプロジェクトに挑戦して良かったなと感じていることです。また、ありがたいことに発表の場をたくさんいただいて、私達の話を聞いて共感してくださる方の存在を肌で感じたり、クララウドファンディングを通して皆さまから温かいコメントをいただいていることで、頑張ろうという支えになっています。多くの方にご協力いただいていることを感じる度に、恩を仇で返すことのないように精進していきたいという気持ちが強くなっています。」
―製造協力してくださる企業やクラウドファンディングの支援をしてくださる方、たくさんの方との繋がりが生まれていますね。では地域へのアプローチについてはいかがですか?
荒井さん「先日、市役所の方とお話してきました。まずは柏市からどう広めていくか、多くの方がお越しになるイベントを紹介していただくなど、アドバイスしてくださいました。また市役所だけではなく、公民館や柏市内のイベントを宣伝しているインフォメーションセンターなど、いろいろな行政・施設に出向いて、チラシを置いていただけないかお願いしたり、活動についてお話させていただいたりしています。ネットの発信と同時進行で、対面での情報発信をもっと行っていきたいというところから、市役所や地域の方に力を借りるのがベストなのではないかと思い、地域への広報行動も進めております。」
―今後の展望について教えてください
荒井さん「直近だとクラウドファンディングの返礼品をお送りしていくことです。そしてその先の商品化に向けて動いていくことが、今のプロジェクト全体の目標です。そのためには多くの方へ知っていただくための広報活動を継続的に、力を入れて取り組んでいきたいと考えていて、チラシの配布やポスター制作を進めています。柏市の商店街に貼らせていただくために交渉したり、イベントに参加して活動内容を紹介することを予定しています。
また、後輩にも自分の4年間の経験や社会課題に対する考え方を伝えていきたいです。そして自信を持って、いろいろな大会やプロジェクトに挑戦をして欲しい。もし後輩から相談を受けたら、親身になって自分ができる限りのことをしていきたいと思っています。」
使命感を持って取り組むことが、加速度的に学びを広げていく
―近藤先生が実践される“学び”についてお聞かせください
近藤先生「社会の役に立つ実用的な学問を実学と呼びます。工学ではものづくり、農学であれば生物系の学問ですから、まさに研究そのものが将来の技術・産業に資する実学です。社会科学文系も本当は実学であるのに、大学を卒業できればいいという、形だけのものになってしまって、学んだことを生かせない人が多いのが現状です。今の学生はオンラインで情報を得ることに長けていますが、それだけでは本当の課題とその解決策を見つけることはできません。ですから『現場主義でいこう』という話をしています。ネットで困っている人達の話を見聞きしても、自分ごとに捉えることができませんから、現場に足を運び人脈を広げながら、本当に困っている方たちの声に耳を傾け、解決策を探って欲しいです。
また、プロジェクトは楽しむことが大切ですが、コンテストに参加するだけだからとか、それだけの理由では若い学生の貴重な時間を使うのはもったいない。当然、学生達の成長に繋げなければいけないので、特にこのサステナビリティの話については『本当にこの人を助けたい』という“使命感”を持って取り組んで欲しいという話をしています。さらに、絵空事ではなく社会実装まで目指そうということで今回のプロジェクトには挑戦しました。」
―プロジェクトを通して学んだこと、自分の中での変化や新たに得た視点について教えてください
野崎さん「今まで目につくことがなかった場所にもフードロスの問題があることに気づくようになりました。アルバイトをしている時に他の店舗の食品廃棄を見かけると、何かいい仕組みづくりができないかなと考えたりします。また自分の中の変化としては、プロジェクトを始める前は考え方が固定的というか、ひとつの考えで動いてしまうことが多かったなと思います。いろいろな方にアドバイスや知見をいただいたことで見方が広がりました。『こういう時はどうしよう』といった場面でのアイデアが増えたように感じています。それから、人前で発表することが本当に苦手でご迷惑かけてしまったこともありましたが、多くの機会をいただく中で褒めていただくことも増えて、自信を持って発表をできるようになったことも成長した点だと感じております。」
荒井さん「僕もフードロスの話題をテレビなどで見かけると、今まで聞き流してしまうこともあったのですが、自分の中でアンテナが立つような感覚で、耳に入るようになりました。今回の僕達のプロジェクトに関するSDGsの課題以外のものに対しても、気になって調べたりして、関心事が少しずつ広がっています。日々の暮らしの中でも、ある問題に対して『自分だったらどうするか』を考えるようになって、SDGsや他の社会問題もだんだんと自分の行動の中に落とし込めるようになってきたと感じています。自分が良ければいいではなくて、他の方がどう思うか、どういう風に見てくださるかを考えてプロジェクトに取り組んだことが、その変化が生まれた理由かなと思います。」
―近藤先生が考える“アワードに参加する意味”について教えてください
近藤先生「国内外の環境問題や人権、それらの政策について長年研究しているのですが、海外の人と比べると日本人はそれらの問題に対して十分な理解のある人がとても少ないです。しかし企業では既にESG投資(環境、社会、ガバナンスを考慮した投資)が求められているので、対応できる人材が不足しているのが現状です。ですから学生達には本当の現実を知り、危機感を持ってもらいたい。例えば2030年頃に平均気温が1.5℃上がってしまったら、気候問題は負のスパイラルに陥り取り返しのつかないことになりかねません。しかしそれは若い世代の力無くしては解決することができません。ゼミの学生達はそのことを受け止め、熱意を持って多様なプロジェクトに挑戦してくれています。そしてコンテストなどに参加することでたくさんの方にメッセージをお届けして、皆さまの心に何か影響を与えることができたらという希望を込めて、アワードにも参加しています。
ゼミとしては、やったことをただ伝えるだけではなく、本当に皆が自分ごととして捉え、皆で地球と社会を守っていこうという意識を持っていただけることに、学生達と挑み続けたいと思っています。」
取材を終えて
「何をするにしても、自分ひとりでは何もできません。人との繋がりを大切にし、関わってくださった方には貴重なお時間をいただいていることも含めて、学生達には感謝の気持ちを忘れないでいて欲しいです。」とお話しされた近藤先生。インタビューを通して荒井さん・野崎さんの言葉からは、周りの方への感謝やプロジェクトへの責任感が随所に感じられ、近藤先生の想いをしっかりと受け止め、ご自身の学びに昇華している様子が伝わりました。
『実学』をテーマに多彩なプロジェクトを推進されている近藤ゼミナールの皆さん。これからのご活躍もアワードを通してお伝えできればと願っております。
~2024年1月、活動の進捗状況をご報告いただきました!~
1月、フィリピンのバナナ農家へ現地調査を行ったとのご報告をいただきました。現地の方に寄り添い、その状況への理解を深め「生産者の皆さんを応援したい」という想いが強まった皆さん。規格外バナナの活用を社会に広めてメッセージをより多くの方へ届けたいとお話しくださいました。
さらに、バナナビールの店舗販売が始まったという嬉しい進捗も届きました。幕張ブルワリーやその他イベントでの特別販売など、販路を広げていきたいと力強いコメントをいただきました。
これからのご活動も応援しております!