SDGs探究Library

SDGs探究AWARDS2023

千葉県立小金高等学校
チームインディペ
廃棄される<規格に満たない農作物>を
再利用するためのプロジェクト活動

千葉県立小金高等学校チームインディペの皆さんは、「身近な無駄をポジティブに地域創生~ボナペティ小金パン~」という作品でSDGs探究AWARDS2022(以下、アワード)中高生部門・優秀賞を受賞されました。作品では、松戸市の特産品の中で、通常なら廃棄される規格に満たない農作物に注目。それらを利用した商品を考案し、地域の方々と協力しながら販売するというプロジェクトについて報告されました。
今回は、チームインディペの皆さん(高校2年生の廣井あいのさん、黒川優羽さん、三木紀花さん、活動をサポートされた椿仁三千先生)に、プロジェクト発足の経緯や探究活動の進め方、活動を通して学んだ点についてお伺いしました。

千葉県立小金高等学校 チームインディペ 集合写真

先輩達から引き継がれてきた大切なプロジェクト

―プロジェクト発足のきっかけについて教えてください

椿先生「今回のプロジェクトは、実は2つ上の先輩達が立ち上げたものなんです。彼女達で3代目になります。 最初の世代は『地域のブランド力をあげるために、廃棄される農作物を活用しよう!』と、規格に満たない果物を地域の飲食店などに持ち込み、商品化を試みました。しかし、ビジネスの視点が弱かったために企画を受け入れてもらえず、思うような成果を出せませんでした。
2代目になって、今度は市役所に企画を持ち込んだのですが、そこでも企画が詰め切れていないという理由でダメ出しをされました。しかし、めけずに活動を続け、なんとか商品化し、販売を始めるまでになりました。その活動の中で地域のNPOの方が注目してくださり、そこから再び市役所の方と繋がりを持つ機会を得ました。そして今年度、チームインディペの世代が活動を引き継ぐ中、一緒に地域貢献がしたいとおっしゃる方々が増え、歯車が合うようになりました。彼女達の活動で関係各所とのコラボがうまく回るようになり、商品を市のイベントや地域のお祭りで販売できるまでになりました。」

―代々引き継がれてきたプロジェクトだったんですね。プレッシャーや不安はありましたか?

廣井さん「もちろんありました。1つ上の先輩達の活動でやっと形になってきて、いろいろなものを作れるようになっていたんです。その中でも<アジサイネギのパン>が有名になりはじめたところだったので、私達の代で先輩達のがんばりを潰しては申し訳ない、必ず成果を出そうと心に決めて取り組みました。」

三木さん「私達学生が社会人の方とうまくコミュニケーションが取れるのか、というのも大きな不安でした。 視点や考え方が甘くならないようしっかりと考え抜き、責任を持ってできること、成し遂げたいこと、協力してくださる方々への配慮などに重点を置いて相談するように心掛けました。それが、さまざまな場所で活動できる成果に繋がったのだと思います。今は、市の政策推進課の方と相談しながら、松戸ふれあいフェスタや、柏レイソル・千葉ジェッツの試合会場、船橋の駅など、市のイベントが開催される場所で販売活動ができています。」

―プロジェクトを進める上で苦労したこと、ワクワクしたこと、嬉しかったことはありますか?

廣井さん「私達がSDGsを通じて何を目指しているのか、お客さまに商品のコンセプトを理解していただいた上で購入していただくという手順が大変でした。まず何を伝えたいかを組み立て、わかりやすくはっきり伝えることを意識し、実践を繰り返しました。実は大きな声を出すのも苦手だったんですが、そうすることで徐々に慣れていくことができました。嬉しかったことは、お客さんが『美味しかったよ』とか『がんばってね』と、声をかけてくれたことです。」

黒川さん「私も接客に苦労しました。最初に販売を行った柏レイソルのスタジアム前では、大きな声を出して呼び込みをしても、買いに来てくれる人があまりいなくて。せっかくいろいろな人に協力して貰って作ったパンが売れなかったらどうしよう…と焦りました。でも、諦めずに声を出しているうちに、自分達の活動を理解して商品を買ってくれるお客さんが出てきて。応援していただけていると実感できたのが、励みになりました。」

三木さん「私も2人と同じで接客が大変だったんですが、『もっと詳しく教えて』とお客さんが関心を寄せてくれたときは、とても嬉しかったです。一番苦労したのは自分達がやってきたことを発表する機会が多くあったことです。私は発表が苦手だったので、嫌だなと思っていました。ですが、これも数をこなしていくことで克服できたかなと思います。」

千葉県立小金高等学校 チームインディペ パン販売の様子

答えのない問いについて、考えていくSDGs探究活動

―学校では「探究」と「SDGs」を掛け合わせた授業をされているとお伺いしました。具体的にお聞かせいただけますか?

椿先生「『産業社会と人間』という授業の中でSDGsと探究を取り入れています。SDGsは世界規模の問題も扱いますが、目標を自分達の生活に落とし込むと、身近にある課題に気づくことができます。そこから<自分ごと>として課題を捉え、考えることを学んでいきます。生徒達はすぐに答えを欲しがるのですが、これからの時代は<答えのない問い>について考えられる能力、いわゆる<探究する力>が必要となります。SDGsを題材にして探究の授業をするということは、そういう点でシナジー効果があります。具体的には新聞から調べるワークや、地域に出て調査を行ったりします。2年生では<課題研究>として個人でアクションを起こしていきます。」

―探究テーマはどのように決めていくのですか?

椿先生「まずは、ホワイトボードなどを使ってアイデアをどんどん広げていくところから始めます。テーマは絞るのではなく、広げるのがポイントです。一つのテーマに対していろいろな視点から捉えながら、気がついたことをどんどん書き出し視覚化していきます。そうしていくうちに生徒達はさまざまなことに気づき、自分との接点を見つけ、テーマを絞っていくことができるようになります。」

―先生はどのような形で探究活動をサポートされているのでしょうか

椿先生「大事にしているのは生徒達を誘導していくのではなく、とにかく伴走に徹するということです。例えば<子どもの支援>をテーマに選んだ生徒がいました。彼女は子ども食堂でボランティアを始めたのですが、そこでさまざまな国の子ども達に出会いました。子ども達とのふれあいで得た経験から、彼女のテーマはそれぞれの国の人々がお互いの文化を認め合い、共に生きていく≪多文化共生≫に変化していきました。そして、ウクライナの子ども達に焦点をあてた読み物を作り、国の実情を共有しながら郷土料理のボルシチを皆で食べるというアクションに辿り着きました。このように、生徒達は探究活動を通して自分で気づき、考えを発展させていきます。この動きを止めてしまわないように、生徒自身がどのように思考を広げていくのか見守る。そういった距離感を大事にサポートしています。」

千葉県立小金高等学校 チームインディペ 授業風景

活動を通して学んだ「相手の立場に立って考えるということ」の大切さ

―このプロジェクトを通じて、学んだこと、成長したと感じることをお聞かせください

廣井さん「経営とか商売といった経験のない学生である私達が、『こういうことをやりたい!』と簡単に言ってしまうのではなく、協力を得たい方々、関係する方々の立場になって考えることを学びました。今回の場合は農家さんや販売店さんとの関係を築きながら、ビジネスとして持続可能なのかどうかを考えていくことが必要でした。また、自分の思いを伝えるには、わかり易く言葉を選んで丁寧に説明することの必要性も学びました。」

黒川さん「何かを成し遂げようとするときに、仲間を見つけて一緒に行動を起こす重要性を学びました。自分だけで考えていても、なかなか行動には移せないものだなと。同じようなことを考えている人を見つけ、共にアクションに移していくと、スピードも実現性も高まると言うことを経験しました。この経験を、これからの活動や社会人になってからも生かしたいと思います。」

三木さん「私はこれまで何か行動を起こしたいと思った時に、『高校生だから…』と諦めることがよくありました。でも活動を通して『高校生だからできることもある』という考えを持てるようになりました。実は環境問題にも興味がありますので、大学生になってからも<今の自分だからできること>を見つけて、探究活動をしていきたいなと思いました。」

―先生は、生徒の皆さんの成長をどのように受け止めておられますか?

椿先生「こういった経験を通して、想いを共有したり、思考していくという行為自体が大事だと思うんです。パンを作って成功したということではなく、思考して自分の問題として認識し、行動を起こすことが大切で、そういう学びがこれから大学生、社会人になって必ず役に立つと思います。探究学習やこういったアワードの目的もそういったところにあると思っています。賞をいただくことが目的ではなくて、自分達で考え、アクションをまとめ、発表し、振り返る機会を得ることが大事なんだと思います。そういう意味では、生徒達は私が思っている以上のことを身につけてくれたと思います。これからの活躍が本当に楽しみです。」

―最後に。このプロジェクトを今後、後輩達にどのように引き継いでいって貰いたいですか?

廣井さん「今、この活動に興味を持ってプロジェクトを引き継いでくれる人を探しています。まずは、私達がこれまで作ってきた、農家さんや販売店さん達、たくさんの方との<繋がり>を、途切れることのないようにしていって欲しいです。その上で次に何ができるかについては、次の世代がテーマを探究して考えていって貰えればと思っています。」

取材を終えて

数々の困難を乗り越えながら先輩達から引き継がれてきた大切なプロジェクト。チームインディペの皆さんが大きな覚悟を持ち、自分達の苦手を克服しながら、懸命に活動されてきた姿勢に感銘を受けました。
また、伴走に徹するという姿勢で生徒達を温かくサポートされてきた椿先生との厚い信頼関係を伺える機会ともなりました。このプロジェクトが次の世代に引き継がれ、どのような進化を遂げるのか、新たなご報告を心待ちにしております。

千葉県立小金高等学校 チームインディペ 受賞作品