大阪電気通信大学
異分野協働エンジニアリングデザインプロジェクト
「ものづくり」が繋ぐ技術者のパートナーシップ
大阪電気通信大学では工学部3年次に「異分野協働エンジニアリング・デザイン演習」という授業を実施しています。これは工学部の異なる学科に所属する学生でチームを作り、新しい技術開発をプロジェクトベースで行うものです。この授業の成果発表としてSDGs探究AWARDS2020(以下、AWARDS)学生部門に複数のチームがエントリー。「ボルテックスジェネレータによるプロペラの風切り音の低下」の作品が優秀賞を受賞されました。この授業を指導されている大阪電気通信大学工学部 海老原 聡先生、田中 宏明先生、受賞作品を設計製作した河端 亮さん、鈴木 研汰さん、堤 稜太さん、廣瀬 光貴さん(受賞時3年生)にお話をお伺いしました。
複雑化する将来の働き方を想定し、
学科横断的なチームで取り組む「ものづくり」PBL学習
―「異分野協働エンジニアリング・デザイン演習」について教えてください
海老原先生「この授業は、工学部のそれぞれ異なる学科の学生同士がチームを組み、研究テーマを決めてものづくりに取り組む授業です。学生は入学時に学科選択を行い、その分野のイメージや学習目標を持たせることに寄与していますが、学科縦割りの専門教育を経て企業へ就職した際、自分の専門以外の分野を含む業務にも携わることがほとんどかと思います。企業では専門分野の複合化・多様化が進んでいますので、他分野の人や立場の違う人を含む他者とチームワークを遂行する能力を学生時から育てることが肝要だと考えています。そのような背景から今回のProject-Based Learning(PBL)の実施に至りました。PBL には学生が興味を持ちやすく、成果に対して具体的なイメージを持ちやすいテーマを選ぶことが重要と考え、この授業では生物模倣技術を取り扱うことにしました。生物模倣技術はあらゆる生物の構造と機能をヒントにして技術に活かしていくものです。生物の動きや構造を観察し応用して新たなものを創り出すことは、多くの学生にとって興味深いであろうものですので、適した技術だと思います。」
―異分野の学生をチームとして機能させるために、どのような働きかけをされていますか?
海老原先生「最初に協働で行うことの意義についてお話しています。それから学生それぞれに自分の得意なことをアピールしてもらう場を設けていますね。皆さんはじめましての状態なのでアイスブレイクも非常に重要です。3年生になると知識や環境など自分のものをある程度持っている状態になるので、1年生の時とはまた少し違う雰囲気になるんですよね。ですから単純なストローワーク(ストローを使って何分以内に塔を作るといったグループワーク)を最初の共同作業として取り組んで、親睦を深めてもらっています。」
田中先生「学生は大概、授業や試験をひとりで受けることが多いと思うんです。一方この授業は協働で、しかも分野を超えて取り組むところに意義があると思います。お互いの得意なことを出し合い、苦手なことを補い合うというのが素晴らしいと感じています。指導で心がけているのは、あまり教員の意図の方に持っていかないということですね。学生が自主的に行きたい方向に行けるようにサポートすることです。」
海老原先生「加えて、独自のルーブリックを作って達成目標を示しています。『協働で作業する』『他の人にやって欲しいことをしてもらえるように働きかける力をつける』『自分がやらないといけないことを認識して自分で動く力をつける』といった項目です。少なくともそういう力が重要・必要なんだと学生に気づいてもらう、そして具体的に自分がどうありたいのかを考えてもらう。それができたらこの授業は成功なのかなと思います。」
―学生の皆さまにお聞きします。研究を通して得た学びや気づきはどんなことですか?
廣瀬さん「すでにあるプロペラを参考にいろいろと細工をしたんですけど、あまり効果が無かったんです。ただ模倣するだけでは上手くいかなかった。そこで必要な条件を洗い出してから進めるというやり方に変えました。なるべく低コストで簡単に条件を変えられるように、といった研究プロセスを学びました。」
河端さん「自分の考えを伝える練習になるんじゃないかと、この授業に参加して感じました。自分の中では当たり前の知識が他学科だと伝わらないこともあるので、どこから説明するかというのが難しくて。理解してもらうために図を使ったり身振り手振りだったり、コミュニケーションの工夫をしました。それと、自分の学科で学んだことを研究に取り入れることでチームに貢献したい、という気持ちも持ちました。」
生物模倣技術から考える自然と調和した技術開発と
協働によってSDGsに貢献する意識を育む
―SDGsは授業の中でどのようにお話しされていますか?
海老原先生「現代は発達した文明の中で暮らしていますが、もともと人間も自然の中にいたものなので、生物模倣技術は私たちの生活と調和しやすいと思います。SDGsで目指しているのは限られた地球資源の中で、持続可能な社会を実現するもので、自然に優しい技術・再生可能エネルギーといったものに代表されるように、非常にこの技術と相性が良いので、授業の中で学生に話をしています。」
―具体的にはどのようなお話を学生にされるのですか?
海老原先生「学生に研究テーマを決めてもらう際に、将来の理想を描いて、その理想に叶えるために必要な技術を生物の中に探しに行くというプロセスがあります。その前提として、私たちは将来のあるべき姿やライフスタイルを考えなければならない。そのためには世界的な課題であるSDGsを念頭に置くのが大切ということをお伝えしています。そのライフスタイルからどんな技術が必要になるかを考えるのが次の段階です。」
―どんな技術例を紹介しているのですか?
海老原先生「将来、原子力発電が使えないとなった場合、自分で使う程度のエネルギーを溜められる技術を想像します。例えばわずかな風を利用してエネルギーを作れるようになったら、原子力発電とまではいかないかもしれないけど少しは代わるものになるのではないか。そしてわずかな風で回る技術が必要というのを認識したら、それを利用している生物を見つけてみよう、と生物模倣技術では考えます。具体例で言うとトンボはわずかな風で飛ぶことができますよね。実際にトンボの羽を応用してプロペラを作る研究があったり、そういった機構を利用した風力発電があるという紹介をしたりしています。」
研究成果の発表の場として挑戦したSDGs探究AWARDS
技術と社会との繋がりをより意識するきっかけになった
―SDGs探究AWARDSにエントリーしたきっかけは?
海老原先生「授業では最終的な発表会をするのですが、コンテスト形式にはしませんでした。発表会だけで1位を決めたとして、それが模範的なチームなのかというと必ずしもそうとも言い切れないと思います。しかしながら一生懸命取り組んだ成果が、他者からどう評価されるだろうと感じる学生も当然います。そのような学生にとっては、なにか外部に挑戦することは非常に良いなと思っていました。ちょうどその時に他の授業担当の先生がSDGs探究AWARDSのサイトを見つけまして。エントリー時期も年度末で、授業が終わってから提出するのにピッタリと合うこともポイントでした。AWARDSの趣旨に合うようコンセプトを改めて考えたり、表現方法を磨いたり、その過程も学生にとって良い経験になると思いエントリーを勧めました。」
―学生の皆さん、研究を進める中でSDGsとの繋がりは意識していましたか?
堤さん「正直研究をはじめた時点ではあまり意識していませんでした。でもSDGs探究AWARDSに応募する上でいろいろ調べて、作品でも取り扱ったドローンを例に今後の役に立つ技術を考えるようになって。SDGsと繋がっているんだなと実感しました。」
鈴木さん「SDGs探究AWARDSに参加するにあたって身の回りのSDGsに関することも考えるようになりました。プロペラの技術だって、例えばドローンだけじゃなくて風力発電といった他のものにも応用できるので広がっていくなと。今ある技術だけじゃなくて、これから使える技術について考えるのは楽しいし、大事かなと思います。」
海老原先生「最初に『社会の実情や課題』から入り必要な技術を考えるのは理想ですが、、特に理系の学生、私自身もそうなのですが、あまりピンとこないということもあります。この場合には、自分が興味のある技術から始まって、それが世の中にどう役に立つかというプロセス、つまり物から社会との接点を見つけていくというのも大切だと思います。」
田中先生「SDGsをはじめは知らなくても、得意なところから入って、それから自分で気づいていける。こちらから意識させるのではなくて、自分からものづくりを通じて自然に意識するようになる、というのが大事だと思います。」
技術の探究と社会課題に目を向ける
視野の広いエンジニアを目指して欲しい
―これからの社会で求められるエンジニア像についてお聞かせください
海老原先生「今までの理系の学生を見ていると『物』に興味を持って、そこから研究を進める方が多いです。ですが一旦そこで社会全体の様子を見て、それに対して『自分はなにをしなければいけないのか』あるいは『してはいけないのか』といった、技術者としての倫理・センスがこれからはもっと大切になると思います。そういう観点からすると、SDGsのように国際的に必要でかつ求められていることに対して、自分がどういうポリシーを持って取り組むべきか、考えることができる技術者に育っていって欲しいなと。」
田中先生「エンジニアって、ものづくりにしてもプログラミングにしても視野が狭くなりがちなんですよね。そこしか見ていない。それでは今後問題があると思っています。やっぱり視野を広く持って、SDGsをはじめとして世の中の動きを意識して。そして意識しながらも、研究や自身のやるべき事に集中しているエンジニアが理想ですね。」
取材を終えて
理工系大学の特性を活かした『ものづくり』を起点とするパートナーシップ、技術とSDGsとの繋がりを体感した学生の皆さん。ここではお伝えしきれないたくさんの研究アイデアも教えてくださり、将来のエンジニアとしての一端がキラリと垣間見えました。次回のAWARDSへの意気込みをお伺いすると、「挑戦するところまでいってくれたら、それだけで嬉しい。」と海老原先生は語ってくださいました。
取材中には今回のチームの作品の他にも生物模倣技術で開発された様々な作品を実際に見せていただき、これからもAWARDSを通してたくさんの作品と、そして『学び』を発信できればと願っております。