東北学院大学
パン店活性化チーム
消費者・販売者・生産者、
それぞれの想いをつなぐゼロからの商品開発
東北学院大学パン店活性化チームの皆さんは「『食べるSDGs』~食品ロスの削減 学内パン店との挑戦~」という作品で、SDGs探究AWARDS2021(以下、アワード)学生部門・最優秀賞を受賞されました。土樋パン製作所、河北新報社との産学連携で活動されたこのプロジェクトは、食べられるのに廃棄せざるを得ない状況にあったリンゴをパンの材料として使用。ゼロから商品開発し、大学内のパン店から地域の方へと、その想いと共に広げていきました。今回は12名のチームから、石川朱莉さん、岸暖香さん、野呂貫太さん、伊東優人さんの4名にお話しを伺い、プロジェクトへの想いやご自身の学びについてお話しいただきました。
地域復興をテーマとするサークル活動
産学連携でSDGsの貢献へと発展していく
―今回のプロジェクトはサークル活動の中で行われたそうですね
野呂さん「僕達のサークルは地域復興を軸に、企業の方からお誘いをいただいて、さまざまなプロジェクトを一緒に運営するものです。例えばこれまでに、全国チェーンの雑貨屋さんの仙台支店とコラボして、福袋用の商品をデザインしたり、オープンキャンパスで配布する大学オリジナルのグッズを制作したりしました。企業とのプロジェクトの他には、新入生歓迎会や学祭など学校行事の運営のお手伝いもしています。僕達のサークルの特色は、幅広くいろんな活動にチャレンジしているところです。」
―今回のプロジェクトが始まったきっかけと、アワードへのエントリーの経緯を教えてください
石川さん「大学の職員の方から、『大学内に新しくできたパン屋さんと何かできないかな』とお話をいただいたことから始まりました。プロジェクトを進めていく中で、一緒に活動していた河北新報社の方が『このプロジェクトはSDGsに沿った内容と言えるね』と、SDGsに取り組んでいる活動としても何か形に残るものをと考えてくださって、このアワードを紹介していただきました。今までサークルとしてもコンクールといったものに参加したことはなかったので、初めてだけどやってみよう、と応募するに至りました。」
―廃棄される食材を活用しようというアイデアにたどり着いた経緯を教えてください
石川さん「自己紹介の中で私の母の実家がリンゴ農家です、という話をしたら、一緒に活動するパン屋さんが注目してくださったんです。リンゴは保存も効くので扱ってみたいと。実状として廃棄の問題がその実家の農家でもありましたので。参加者の皆さんもすぐ賛成してくれて、廃棄予定のリンゴを使うことを最初の目的としてプロジェクトが動き出しました。」
岸さん「そのパン屋さんはお弁当なども扱っている食品会社で、余ったお弁当を他の居酒屋さんで売ったりして、ロスを無くす取り組みをしていると知りました。今回のプロジェクトでも食品ロスはもちろんですけど、さらに『チャンスロス』という、売れたはずなのに数を制限したせいで損失が出ることを防ぐ取り組みがしたいという想いを聞いて、ぜひそれらにも意識を向けた商品作りがしたいなって思いました。」
―SDGsに対してはプロジェクトを始める前から知識はありましたか?
野呂さん「高校の時に、こういうものがSDGsっていう概念は知ってはいたんですけど、今回の活動を続けていく中、アワードへの参加のお話をいただいたことで『僕達の活動ってSDGsなんだ』って知ったというか、自分の中でうまく紐づいたという感じですね。」
みんなの想いをのせたリンゴのパンをたくさんの人に届けたい
個人で、協働で役割を全うする
―リンゴを使ったパンの商品開発とポスター作成やインスタグラム運営といった広報に担当を分けて進めていかれたそうですね。それぞれの役割で工夫した点を教えてください
野呂さん「広報班でポスターとインスタグラムを使って宣伝をしました。僕は広報班の全体の動きを見ながら、基本的にはポスターのデザインを担当していました。ポスターはシンプルなデザインの物と、高齢者の方が見てもわかりやすい色味を使った物と、複数作って対象を差別化しました。シンプルなデザインの方には東北学院大学らしさも盛り込もうということで、学内のホーイ記念館という建物の屋上にQRコードがペイントされているのですが、それにちなんでポスターにインスタグラムのQRコードを載せてみたり。もうひとつのポスターには、生産者の石川さんの祖父母のお顔やイラスト載せて、親しみやすく『食べるSDGsですよ』っていうメッセージが伝わるように制作しました。」
―プロジェクトを進める中で大変だったことを教えてください
岸さん「商品を使って食育をしたらどうかとか、いろんな価値を付けようと思ったんです。なるべく多くの人に知ってもらいたいという気持ちが先走ってしまって。せっかく良い商品なのに、コンセプトがごちゃごちゃになってしまったことがありました。自分達のしたいことって、『パン屋さんの想いを表した商品を作ること、廃棄されてしまうリンゴを減らすこと』だよねってコンセプトを再確認して解決していったのが私の中で記憶に残っています。」
石川さん「私は祖父母とパン屋さん、それぞれに連絡を取って、リンゴの数がどれくらい必要なのか、いつまでに納品すればいいのか、それを逆算していつまでにリンゴを収穫しなきゃいけないのかというやり取りをするのがすごく大変でした。プロジェクトの活動日以外にも時間を設けなければならなかったので。でも時間のやりくりに苦労した反面、すごく自分自身では成長できたなって記憶があります。」
―開発した商品が消費者の方に届いたとき、どんな気持ちでしたか?
岸さん「お客さんが商品を手に取った時に、『これ捨てられちゃうリンゴが使われてるんだ』とか、『手軽にSDGsに貢献できるんだ』という感想を言ってくださったと聞いて、自分たちが想いを込めて作った物がちゃんと届いてるんだなって、すごく嬉しかったのを覚えています。」
―学生である皆さんが生産者・販売者・消費者をつないだ今回のプロジェクトですが、大学生が企画を推進する意義は何だと思いますか?
野呂さん「大学内にあるパン屋さんということもあって、商品の趣向や値段、お店の雰囲気などヒアリングを行って、大学生の目線から何を求めているのかを商品に落とし込めました。それから、地域の方や家族にSDGsに対するイメージを気軽に聞くことができましたし、それらを上手く広報に取り入れられたのではないかなと感じています。」
石川さん「大学というのは地域の方にも認知していただいている部分が多いので、知っている大学の学生がやることによって、『地元の大学生がんばってるな』とか、『〇〇大学だから信頼できる』とか、そういった親しみを持って接していただけるという強みもあるかなと思います。」
コロナ禍で得た貴重な経験を将来に活かしたい
―このプロジェクトでの感想や、ご自身の中で成長したなと思うことを教えてください
岸さん「SDGsについて名前自体は知っていても、自分とはかけ離れているというか、意識が高い人が取り組むようなことなのかなって思っていました。でも活動していくうちに、自分達の社会と繋がっている問題だということを知れました。今回のポイントは、パン屋さんと農家さんと消費者の人、三者にメリットがあるという点で、その循環というか、ちゃんと経済活動が成り立つ形で商品を作ることができたと思っています。今後、何か課題を解決したいと思った時に、どうすれば他の人が協力してくれるか、みんなが参加しやすい仕組みを作ることが大事だなと思いました。」
伊東さん「コンクールで賞をいただいたり、メディアにも取り上げられたり、こんなに大きな反響を呼ぶとは思っていなくて驚きました。このプロジェクトは周りをどんどん巻き込んで、ひとつの大きなものを作り上げたものだと感じています。成長した点としては、僕はポスターの設置場所に許諾を得る係をしていて、ここに設置して良いかとか、通行人の邪魔にならないかとか、学校の本部の方とやりとりをしました。ひとつの目標に対して、どういうプロセスを踏んで、計画を立てて実行していけば良いのかっていう計画性が身についたと思います。」
野呂さん「自分ができることを精一杯やって、最後までやり通せれば良いなと思っていたんですけど、結果として自分の中では、周りを見る力が育まれたなと感じています。ポスターを作るにあたっても、いろんな方が見るので、どういうポスターだったら購買意欲をそそるのか、興味を持っていただけるか、そういった視点を意識したり。あとは広報班のリーダーとして、周囲の状況を見て、みんながどう動いているのかを確認した上でフォローすることができたかなと思っています。」
石川さん「パン屋のスタッフさん、後輩、いろんな方と交流して仲良くなれたことが一番大きいです。コロナ禍になって人との交流が絶たれる中で、どうやって活動していくか難しい時期であったにも関わらず、大学の職員の方がこのような機会を設けてくださって、私も含め参加した皆さんにとってすごく貴重な経験になったと思っています。就職活動も控えて私の中ではこれが最後の活動と決めていたのもあって、一生懸命取り組んだというのもありますが、このプロジェクトのリーダーになって、リーダーだけが先走ったら周りはついてきてくれないということを学びました。抜け漏れの無い情報共有や、何か不安があった時に気軽に相談できるような人になりたいという思いを大切にしました。」
―皆さんが得た力・視点を、これからの将来やキャリアにどのように生かしていきたいですか?
野呂さん「このプロジェクトに取り組んだ2年生の時は食品業界のことをまったく知らなかったのですが、やってみるとすごく面白いなと思いました。他の業種も深く知りたいと思うようになった良いきっかけになっていて、今の就職活動に活かせていると思います。」
伊東さん「このようなゼロからイチを生み出す体験はなかなかできないものだと思います。これから職業を選ぶ時にも、今回のような達成感を得られる仕事を選びたいです。それからSDGsに関わるような、食品ロスはもちろん、他の目標の達成にもつながる職種選びができたらと考えています。」
石川さん「この活動の中で、消費者・生産者・販売者の目線を学ぶことができました。その視点を活かした仕事がしたいと思って、就活ではいろんな会社を見るようになりました。結果として、今回のプロジェクトに通ずるような仕事ができる企業に内定をいただけて、今後のキャリアにもすごく役に立つ出来事になりました。」
岸さん「課題を自分の手で解決することの面白さに気づいた経験でした。職種や業種に関わらず、自分がその組織でどう動くことができるのか、与えられている役割は何かを意識して行動できる社会人になりたいなと思いました。」
取材を終えて
コロナ禍で様々な活動が制限される中においても、主体的にそれぞれの役割を考え、懸命に取り組まれていたことが伺えました。初めからSDGsを意識していたわけではなく、「関わるみんなが幸せになること」を目指したものが、結果としてSDGsの目標達成に寄与していた。SDGsの認知が広がる一方で名目だけが先行する風潮もある中、皆さんのプロジェクトは持続可能な社会を作るために本来必要なプロセスであるのではと感じさせられました。東北学院大学の皆さんの新たな挑戦にまた出会えることを心待ちにしています。