奈良女子大学附属中等教育学校 水野太陽さん
技術で繋ぐ地域の輪。「みまもりコンパス」で認知症徘徊問題に挑む中学生エンジニアの挑戦
今回お話を伺ったのは、奈良女子大学附属中等教育学校で日々プログラミングに取り組む水野さん。彼が開発したのは、認知症高齢者の徘徊という社会課題に取り組むWebサービス「みまもりコンパス」。受賞当時は中学2年。この若さでアイディア発案からサービスの開発まで一人で取り組まれた点には審査員から驚きの声も。高齢化社会が進み、地域全体で支え合う仕組みの重要性が増すなかで、多くの人が協力しやすいシンプルかつ実用的な仕組みが評価され、SDGs探究AWARDS2024では企画・アイディア部門 優秀賞を受賞となりました。
このインタビューでは、彼がプログラミングに出会い、どのようにして社会課題解決というテーマにたどり着いたのか、その経緯を伺いました。アイデアを形にする過程で直面したリアルな課題と、それを乗り越えた創意工夫、水野さんが今見据えている未来についてお伺いしました。

ガジェット好き少年、プログラミングへの道のり
―まず、水野さんがプログラミングに興味を持ったきっかけから教えていただけますか?
水野さん「もともとパソコンやスマホといったガジェット系が好きで、それがきっかけでアプリやWebサービスの開発に興味を持ちました。小学生の頃に、ブロックを組み合わせてプログラミングができる『Scratch』で、簡単なレースゲームを作って遊んでいました。」
―小学生からとは早いですね
水野さん「小学6年生の時に一度プログラミングから離れて、動画編集や画像編集に夢中になった時期があるのですが、中学生になって、ゲームの『Minecraft』をきっかけに、ちゃんとしたコードを書くプログラミングを再開しました。所属しているサイエンス研究会の先輩が『未踏ジュニア』という小中高生対象の技術者を育成するプログラムで『スーパークリエータ』に認定されたんです。メンターの方の指導を受けて自分のアイデアが本格的な形にできると知って、中学2年生の時に私も採択され、『スーパークリエータ』に認定されました。」
―身近な方の活躍が大きな刺激になったんですね
水野さん「そうですね。小学生のときは一時期プログラミング教室にも通っていましたが、その後の経験にはあまり影響していないかな、と思っています。『これを作りましょう』と決められたものを作るより、自分が『これを作りたい!』と思ったものをどんどん作っていく方がいいと実感しました。」
家族の介護体験が導いた、社会課題への気づきと「みまもりコンパス」の着想
―では、社会課題である認知症高齢者の徘徊問題に目を向けた「みまもりコンパス」のアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
水野さん「きっかけは、がんを患った祖母の介護です。その経験を通じて、高齢者の介護にはこうした難しさがあるんだなと実感しました。そこから、高齢者介護の課題に関心を持ったのが始まりです。」
―ご自身の原体験がもとになっているんですね
水野さん「はい。介護について調べるなかで認知症高齢者の介護について知ることとなりました。病院に行く機会もあったので、看護師さんに『認知症の方が徘徊することって、本当に多いんですか?』と直接聞いてみたんです。そうしたら、『トイレに行くと言って、そのまま外に出てしまい行方が分からなくなる』と聞きました。そんなちょっとしたことで家から簡単に出て行ってしまうことにすごく驚きました。」
―現場のリアルな声が、アイデアを具体的にしたんですね
水野さん「はい。『じゃあ、そういう課題を解決する仕組みがあったら、すごく安心なんじゃないか』と思って。そこからさらに調べていくうちに、『みまもりコンパス』の仕組みを考えていきました。」

アイデアを形に!開発で直面したリアルな壁と突破法
―開発における具体的なお話をお伺いします。アイデアを形にする上で、特に苦労したのはどんな点でしたか?
水野さん「技術的な問題と、ユーザーテストの課題がありました。技術面で大変だったのは、マップの表示機能です。持続可能なサービスにするには、できるだけ運用コストをかけないことが重要だと考えていましたが、Googleマップの機能を使うとお金がかかってしまうので、無料で実装できる方法を探したんです。」
―なるほど、コスト面まで考えたんですね
水野さん「はい。それで、代替となる無料のライブラリ(機能をまとめた部品)を見つけて導入したんですが、ライブラリの持つ情報が少なかったり、マップの一部がうまく表示されない問題が起き、それを解決するためかなりの時間と労力をかけて取り組みました。」
―無料か、有料か、どちらを利用するかで開発スピードにも差が出ますね。もうひとつのユーザーテストの課題というのは?
水野さん「これが本当に難しかったです。理想は、実際に徘徊の可能性がある高齢者の方にご協力いただくことですが、それは現実的ではありません。そこで、学校のサイエンス研究会の仲間に協力してもらいました。『認知症高齢者役』『家族役』『発見者役』と役割を決めて、学校内でシミュレーションを繰り返し行いました。」
―シミュレーションはどのように進めたのでしょうか?
水野さん「高齢者役の友人には、僕たちがどこにいるか分からない状態で自由に歩き回ってもらいました。そして、他の生徒に発見者としてQRコードを読み込んでもらいます。高齢者役は見かけた人数をカウントしていて、そのうち、実際に読み込んでくれた人数がどれくらいかを計測しました。実際に行ってみると、24%しか読み込まれていない、など具体的な課題が見えてきて、どうすればもっと協力してもらえるかを考えて仕組みの改善を繰り返していきました。」
―その試行錯誤の中で、水野さんが特にこだわったのはどんな部分ですか?
水野さん「最も力を入れて考えたのが『いかに発見者側の労力を少なくするか』という点です。QRコードを読み込んでも、その後の操作が複雑だったり面倒だったりして報告してもらえなかったら意味がないなと。だから、発見者のアクションは『読み込んで、送信ボタンを押す』だけにしました。最初はサービスを多機能にすることを考えてみましたし、本当は発見者が警察まで連れて行ってくれるのがベストだと思います。でも、発見報告をすることが何よりも大切だと考えて、とにかくシンプルに、誰でもすぐに使えることを一番優先しました。」

サービスを社会に届けるために。今、直面している新たな課題
―サービスとしては完成しましたが、社会で実際に活用してもらうには、いくつかの壁があると感じています。今後の課題については、どのように考えていますか?
水野さん「大きく分けて2つの課題があると思っています。ひとつは、サービスとしての信頼性を高めるための連携です。今は『みまもりコンパス』という個人のサービスとして動いていますが、これをより実用的なものにしていくためには、行政や警察との繋がりが不可欠だと考えています。」
―公的な機関との連携ですね
水野さん「はい。今後、サービスのセキュリティ面などをさらに強化した上で、例えば奈良市などにサービスの紹介とメリットを提案し、導入を推進してもらえないか、といった連携を目標にしています。」
―もうひとつの課題は何でしょうか?
水野さん「技術的な改善点と、倫理的な課題が絡む部分です。たとえば、捜索情報にどこまでの情報を載せるべきかという点などですね。みまもりコンパスは、捜索依頼をX(旧Twitter)で簡単に発信できますが、行方不明になっている方の写真を入れるべきかどうか。写真があれば発見しやすくなりますが、ご本人のプライバシーの問題や、発見者が写真を撮ることに対して、高齢者ご本人が抵抗感を持つなど、慎重に考えなければいけない点が多くあります。これはしっかり議論して実装を進めたい部分です。」
―サービスの普及には、発見してくれる一般の方の協力も鍵になりますね。参加する側の勇気も必要になる気がします
水野さん「まさにそこが一番難しい部分だと感じています。いざという時に行動してもらうには、どうすればいいか。まずは地域でみまもりコンパスの認知を広めて、地域のみなさんの中で『認知症高齢者を社会全体で見守る』という前向きな気持ちを当たり前に持ってもらう…うーん、難しい。協力のハードルをいかに下げられるか、これは今も考え続けているところです。」

将来の夢と現在の活動
―現在水野さんは「みまもりコンパス」の開発だけでなく、学校でも積極的に活動されているそうですね
水野さん「はい。現在生徒会長を務めていまして、学校のデジタル化を進められたらいいなと考えています。例えば、食堂の支払いにQRコード決済を導入するためのシステムを開発したり、これまで手書きだった先生の連絡を日直が伝える流れを、生徒が持っている端末で共有できるようにしたり、こうした学校のデジタル化を目標に取り組んでいます。」
―学校生活の中でも課題を見つけて、解決に取り組んでいるんですね。そんな水野さんが描く、将来の夢についてもお聞かせください
水野さん「大学には行きたいと考えています。プログラミングで課題解決をすることに加えて、挑戦したいことが他にもあります。ひとつは、社会のインフラを根幹で支えるようなスケールの大きな仕事。もうひとつは、今回の活動で関わった医療のように、目の前の人を直接助ける仕事にも、今は強く惹かれています。」
―幅広い分野に興味をお持ちなんですね
水野さん「興味の幅はありますが、多分エンジニアになる気がします(笑)将来的には自分で会社を立ち上げて、社会の役に立つサービスを開発していきたいという思いがあります。
その第一歩としては、高校生の段階で起業することも考えています。『みまもりコンパス』の開発を通じて、単にサービスを開発するだけでなく、『誰が、どんな場面で使うのか』を深く考えることの重要性を学びました。この経験は、これから何をやるにしても、自分の核になると思っています。」
取材を終えて
今回のインタビューで、水野さんが語ってくれたのは、机上の空論ではない、リアルな体験に基づいた課題解決のプロセスでした。祖母の介護という身近な出来事から社会全体の課題へと視点を広げ、看護師へのヒアリングや仲間とのユーザーテストを通じて、当事者の視点を徹底的に追求する。その実直な姿勢が、「みまもりコンパス」というサービスに結実しています。
また、水野さんの活動は学校生活にも及び、生徒会長として学校のDXを推進するなど、常に「どうすればもっと良くなるか」という問いを立て、行動に移していることが印象的でした。将来の夢として、プログラミングでの課題解決に加え、社会インフラを支える仕事や、目の前の人を直接助ける仕事など、多様な可能性を語るその姿から、分野を問わず社会に貢献したいという強い意志を感じます。彼の挑戦は、同世代だけでなく、私たち大人にとっても、課題解決に向けた行動の重要性を再認識させてくれるものでした。
