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SDGs探究AWARDS2025

愛知県立猿投農林高等学校 森啓佑先生
生徒の「やりたい」を全力で後押しする。
造園指導20年、森先生が語る探究学習指導の本質

2024年度SDGs探究AWARDS(以下、アワード)最優秀賞に輝いたのは、愛知県立猿投農林高等学校の田井中 咲さん(アワード参加時高校3年生)が手がけた「造園の力で地方創生!~地元資源と地場産業に活路を~」。愛知県豊田市小原地区の過疎化に対して、廃棄石材を活用した造園で地方創生に取り組むプロジェクトです。
地域資源を生かし観光スポットを形成することにとどまらず、地元住民や企業を巻き込んだ取り組みで着実に成果を上げ、今後の継続も期待できる点が高く評価されました。
壮大な規模となったこの作品の陰には、生徒の可能性を信じ、寄り添い続けた一人の先生がいます。今回は、田井中さんの探究学習を支えていた、造園指導歴20年の森啓佑先生に、探究学習指導における教師の在り方についてお伺いしました。

愛知県立猿投農林高等学校 森啓佑先生

「石が欲しい」から始まった壮大なプロジェクト

―田井中さんの探究活動は、どのような始まりだったのでしょうか?

森先生「最初から社会問題を解決しようとテーマを考えていたわけではなく、きっかけは授業の中にありました。田井中は入学当初から庭園やガーデニングにものすごく興味を持っている生徒で、庭造りを『やりたい、やりたい』とずっと言っていました。意識も高く、自分の技術を人の役に立てたいということも話していましたね。
ただ、庭づくりには石材がたくさん必要なんです。練習で失敗すると使えなくなってしまうので、『先生、新しい石をください!』と言われるのですが、値段も結構しまして…。」

―練習用の石材確保が課題だったんですね

森先生「はい。そうしたら彼女が『もしかしたら地元に石があるんじゃないか』と。隣の岡崎市は、三州御影石が有名で産出も多かったので、情報を得るために動いていたところ、美濃焼の原料を採掘している会社さんとつながりました。
すると『焼物に使えない石材は廃棄物となり、処分に困っている』というお話を聞いたんです。頂戴できないかと伺ったら『いくらでも持って行って』と言ってくださり、『これをうまく活用すれば、造園業界で欲しがる人が多いのではないか?』という発想に辿り着きました。これが探究学習のきっかけです。」

―予想もしないところに始まりがあったのですね

森先生「もともと、田井中自身が使いたいと思った材料が足りなくなったところを、何とか補うために動き始めたのですが、そこから地方創生をテーマにするまでつながっていきました。」

愛知県立猿投農林高等学校 田井中さん 施工の様子

30分が3分に。努力が生んだ驚異的な成長

―田井中さんはどのような生徒さんでしたか?

森先生「決してネガティブなことを言いませんでした。造園作業は体力勝負の面もありますが、どんなに体がきつくてもやり遂げるんです。逆に私のほうが早く疲れてしまうこともありました(笑)」

―パワフルで粘り強いんですね!

森先生「洋風庭園の駐車場などに敷き詰められることの多い『ピンコロ』という10cm四方の石があるんですが、庭のデザインでは、その石を半分に割って配置する必要があります。彼女は1年生の時、ピンコロを一個割るのに30分かかっていました。30分経っても割れないと普通であれば嫌になってしまうところを、彼女は諦めずにずっと叩き続けていました。結果、卒業する頃には3分で割れるようになったのですが、これは相当早いスピードなんです!」

―そのお話だけでも、彼女の成長幅を感じられます。森先生も見ていて楽しかったのではないですか?

森先生「楽しかったですね。3年生になって活躍する姿だけを知る方からは、『最初から特別な才能のある子だったんでしょう?』と言われるのですが、私は『すべて彼女の努力です』と答えています。 もちろん、田井中のやる気や『好き』という気持ちは人一倍ありましたが、最初からできたわけではありません。できるようになるために、日々苦労してやり続けた結果が、デザインや技術として認められたのだと思います。」

―成長の過程では、何か転機となることがあったのでしょうか?

森先生「『ガーデニングフェスタ』というイベントで、彼女が初期の頃に作った庭がプロの方々から酷評されたんです。『なんでこんな作り方なんだ』と言われたときは、大変悔しかったようです。そこから、自分の技術を上げなければダメだと、石の割り方、積み方、植物の配置にものすごくこだわるようになりました。その悔しさをバネに、2年間でプロの造園屋さんに認められる庭を作れるまでに成長したんです。改めて生徒が成長する素晴らしさを感じました。」

愛知県立猿投農林高等学校 田井中さん 施工した水車の見える公園

「否定しない」「絞り出させる」が指導の鍵

―森先生は、日頃から生徒さんにどのように接していらっしゃるのですか?

森先生「基本的には、生徒が『やりたい』と言ったことは全て後押しし、否定しないようにしています。『それはダメだ』とか『そんなやり方はするな』とは言いません。『こうすればもっと良くなるよ。庭をこっちから見てごらん、少し雑じゃない?』と声をかけると、『本当だ!ここを直していいですか?』という流れになります。」

―庭造りはチームで行うと思いますが、生徒同士で意見が対立した時はどうされるのでしょうか?

森先生「作庭は全体のデザインの調和が重要なので、分かりやすく例え話を出します。例えば『フランス料理のフルコースに味噌汁があったらどう思う?』や、『君が作りたいものは味噌汁かもしれないけど、今みんなで作っているのはフランス料理だよね。この料理に合うかな?』といった具合で問いかけ方を工夫します。」

―個々のこだわりが全体のテーマからずれていることを、本人に気づかせるのですね

森先生「そうです。『これを使いたい』と持ってくるものの中には、明らかに調和を乱すものもありますが、そこで『やめておけ』と言うと『先生に否定された』となってしまうので、本人が考える質問にします。生徒自身も『合っていないかも!』と気づくので、そこで初めて別のものにするよう促し、同時に『そのアイデアは面白いから、次の機会のために取っておこう』と、本人の発想を尊重しつつ温存させるようにしています。」

―根気がいりそうです…。授業後に提出されるレポートの作成においても、生徒自身の気づきにつながるアプローチなどがあるのでしょうか?

森先生「生徒には『感想を10行書きなさい』という課題を出します。最初のうちは『暑かった』『きつかった』といった簡単な感想から始まりますが、10行目にもなると、かなり頭を絞らないと出てきません。その最後に絞り出した言葉こそが、本心なんです。無理やりにでも絞り出した言葉が、次の制作への大きなヒントになることもよくありますね。」

愛知県立猿投農林高等学校 森先生 授業の様子

―そうして絞り出された言葉をどう活用されるのですか?

森先生「授業の最初に、『前回のレポートで、ある生徒がこんなことを書いてくれた。この視点はすごく大事なことだから、今日はそこを意識して動いてみよう』というように、全体に共有します。動機づけですね。」

―レポートで出た内容を次の授業で活かしているんですね。では、生徒の意見をピックアップする基準や、授業への反映について教えてください

森先生「20年間の造園教員としての経験から、『今までこんな意見は出てこなかったな』『この子たちなら全く違う方向に授業を展開できるかもしれない』と感じる、新しい発想を切り取るようにしています。実際、私が考えもしなかったような意見が出てきて、それが思わぬ方向に実習を発展させることがあります。生徒たちも自分が導いた方向に授業が向かうのを実感できる。この化学変化こそが、この仕事の一番面白いところであり、やりがいを感じる部分ですね。」

20年間で培った「生徒を信じる」という信念

―複数の先生で指導する際の工夫もあるそうですね

森先生「今年から新しい先生が加わってくださいました。私は和風庭園や石が得意、もう一人の方は洋風庭園や植物が得意なので、それぞれの専門性を活かせています。ただし、生徒が混乱しないよう、毎日話し込んで情報共有を徹底しています。『明日の実習はこうしよう』『次の庭はこうしたいね』と議論を重ね、同じ方向を向いて指導することを大切にしています。」

―ダブルスタンダードで生徒の混乱を招くのは避けたいところですよね

森先生「長年教員をやってきて思うのは、生徒の可能性は無限大だということです。田井中もそうでしたが、最初は何もできなくても、やる気と『好き』という気持ちさえあれば、必ず成長します。私個人の理念でもありますが、その成長を邪魔しないこと、そして適切なタイミングで道を示してあげることが教師としての私の役割だと考えます。」

愛知県立猿投農林高等学校 森先生 実習の様子

―シンプルながら、とても大切なことだと思います。その理念は、どのような背景から生まれたのでしょうか?

森先生「教師になるときの話なのですが…実は、高校生の段階では『絶対に教員にだけはならない』と決めていたんです。それが友人に誘われて偶然教職課程を取り、大学の事務の手違いで教育実習に行くことになって…(笑)
本当に偶然の連続でした。いざ講師になっても、専門外の造園を担当することになり、全く熱意が持てなかったんですよね。当然、私の授業は面白いはずがなく、クラスは『学級崩壊』に近い状態になってしまったんです。」

―想像もつかないスタートですね!その苦しい状況から、先生の教育者としての核が生まれるような、決定的な出来事があったのでしょうか?

森先生「もうダメだと思っていた時、40人のうちたった一人の生徒が私のところまで来て『俺は先生の授業、好きだな』と声をかけてくれたんです。その言葉に救われ、『39人に聞いてもらえなくても、この子のためだけに届けよう!』と必死に勉強しました。すると不思議と私の話を聞いてくれる生徒が一人、二人、と増えていきクラス全体が変わったんです。」

―ドラマのような展開ですね

森先生「『自分が変われば生徒も変わるんだ』と強く実感したこの経験から、教師という仕事が面白くてたまらない『天職』になったんです。今となっては、その全てに、本当に、感謝です。」

―最後に、今後の目標を教えてください

森先生「今、学校全体が『先輩の庭を超えたい』『今まで作ったことのない庭を作りたい』という雰囲気になっています。田井中のような生徒が、次の後輩たちを引っ張っていってくれる。そんな良い循環を続けていきたいですね。生徒が『やりたい』と言ったことを全力で後押しし、自分で考えて行動できる人材を育てていきたいと思っています。」

取材を終えて

「きれいなレポートより情報量」「最後に絞り出した言葉こそ本心」。森先生の言葉の端々から、生徒の内なる思いを大切にする姿勢が伝わってきたインタビューでした。石を割るのに30分かかった生徒が3分で割れるようになる。その成長の過程に寄り添い、時に生徒以上に作品づくりに熱中する。そんな森先生の姿が、田井中さんをはじめとする生徒たちの心に火をつけているのでしょう。

探究学習において大切なのは、テーマの大きさではありません。「石が欲しい」という素朴な願いが、地方創生という壮大なプロジェクトに発展したように、生徒の「やりたい」を信じ、全力で後押しすることが最大限の結果を生み出します。森先生の生徒との向き合い方は、きっと全国の教育者にとって大きなヒントとなるはずです。

愛知県立猿投農林高等学校 田井中咲さん 受賞作品